10月
01
2026

・このイベントは、東京大学駒場キャンパスで行われます

・入場無料・事前申込不要

フランスとアメリカで人種とアイデンティティの問題はどのように構築されてきたか? アメリカとフランスの比較は現代フランス社会で高まる緊張を解明するのに役立つだろうか?

フランスで人種の問題は1860年代から国民アイデンティティ神話の構築に貢献した。一方で、人種人類学にもとづく地域主義が勃興し、反ユダヤ主義的ナショナリズムがドレフュス事件とヴィシー期において頂点に達した。他方で、植民地主義と白人の優越意識による「文明化の使命」は、人種的表象によって植民地に「原住民法」を押し付けた。人種的表象はさらに1920-1930年代の公共的言説において、ヒューマニズムの名のもとに称揚される。優生学はフランスで人種の純化をめざしたが、ドイツ、アメリカ、スカンジナビアのプロテスタント諸国におけるより抑制されたものだった。

アメリカでは、すでに独立宣言に見られた「白人人種フレーム」が、ヨーロッパから輸入された人種人類学によって白人至上主義のイデオロギーに変化し、奴隷制を正当化しインディアンの虐殺にお墨付きを与えた。このイデオロギーは、南北戦争のあと、南部諸州でジムクロウ法として制度化され、1930年代に強まった。アメリカの優生学は両大戦間に、ロングアイランドのコールド・スプリングス・ハーバー研究所で全盛期を迎え、チャールズ・ダヴェンポートとその助手たちは人種的基準による移民制限法や障害者・性犯罪者など「不適者」の強制断種法の制定に貢献した。アメリカ西海岸におけるアジア人移民に対する人種差別的法律や、アラバマ州タスキギーで黒人梅毒患者に対する臨床研究で死者を出した事件は、人種主義ヴィジョンが生んだもう二つの事例である。19世紀末の人種主義イデオロギーは、1920年代に復活したクー・クラクス・クランや30年代のナチスを支持するドイツ系アメリカ人協会によって蘇った。人種主義イデオロギーは今日、キリスト教ナショナリズムとしてあらわれ、ニック・フエンテスや新反動主義のカーティス・ヤーヴィンがその代表である。

 第二次大戦後のフランスでは、伝統的に右派や極右が担っていたアイデンティティの問題を、遅れて左派も取り上げるようになった。それまでアイデンティティの問題は共和主義やライシテのフランス的概念によって制限され、ついでコミュニスムの重みや構造主義思想によって制限されていた。しかし2010年代になって、フランスの各種マイノリティはアメリカ思想を再解釈し、人種概念を把握しなおして、それぞれの差異を主張し、自分たちが犠牲になってきた差別を告発しているが、時に閉鎖的アイデンティティに陥っている。フランスの極右は、「国民戦線」の名称変更にもかかわらず、人種の固定観念を捨てていない。以上の要素が、新しい文脈での人種とアイデンティティをめぐる緊張と論争と対立を生んでおり、カール・シュミット流の暴力的分断を生み、民主主義の土台を弱体化しているが、それは現在のアメリカの状況を思わせずにはいない。

レジス・メラン(社会人類学博士ー社会科学高等研究院)

レジス・メランはパリ社会科学高等研究院の社会人類学博士で、高等研究院の「社会・宗教・ライシテ」研究グループの客員研究員。ミシェル・ヴィヴィオルカとフィリップ・ポルティエが設立した「人種主義・反ユダヤ主義国際プラットフォーム」のコーディネータを勤めている。主な著書にLe mythe de l’identité nationale (Berg, 2009) ; Obsessions identitaires (Textuel, 2022) ; La racialisation du monde. De la modernité à nos jours (L’Aube, 2026)、Michel Wieviorkaとの共編著にL’universalisme dans la tempête (L’Aube, 2025)がある。

【ディスカッサント】中尾沙季子(東京大学)
【司会】藤岡俊博(東京大学)
【主催】東京大学(駒場)(JSPS科研費25K00403、25H00456)、日仏会館・フランス国立日本研究所

* 日仏会館フランス国立日本研究所主催の催しは特に記載のない限り、一般公開・入場無料ですが、参加にはホームページからの申込みが必須となります。

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