6月
06
2025

最近上梓した『在来的発展と大都市:20世紀日本における中小経営の展開』(名古屋大学出版会、2024年)では、全体のほぼ3分の2の紙幅を、日本の玩具産業の歴史研究に充てた。玩具の現代版ともいえるゲーム関連、アニメ関連の諸産業は、人文・社会科学の諸分野で論議の対象となることも多い。それに対して、産業構造に占める割合が小さく、産業技術面でも主導的・先端的な要素を持っていない玩具産業の歴史は、産業史になじみの深い経済史・経営史の分野でも、ほとんど研究対象にはなってこなかった。では、なぜ敢えて玩具産業なのか?

一口に玩具といっても、雛人形や郷土玩具からアニメのキャラクター・グッズ等まで、その範囲は広い。拙著が対象としたのは、セルロイド人形やブリキ製自動車などに象徴される、両大戦間期から戦後高度成長期にかけて伸長した、伝統玩具から見れば新興玩具ともいうべき製品群であった。本講演では、これらの新興玩具が、輸出向けにほぼ特化しつつ、高所得の欧米諸国で一定のシェアを確保していく過程をみていくことで、その国際競争力が東京に集積する、製造問屋と中小規模の製造者からなる分散型の生産組織に支えられていたことを示す。それを踏まえて、日本の経済発展は必ずしも大規模経営の成立に収斂しない、固有の産業発展のパターン(在来的発展)を含んでいたこと、それが大都市東京の形成の在り方にも影響を与えていたことを論じたい。

【講師】谷本雅之(大妻女子大学)

富山大学、東北大学をへて1997年より東京大学で教鞭をとり、現在は大妻女子大学社会情報学部教授。2009年、2013年、2016年にはフランス社会科学高等研究院(EHESS)で客員教授も務めた。専門は日本経済史・比較経済史。近世・近代日本の農村織物業の歴史を、「在来的発展」の視点からまとめた著作として『日本における在来的経済発展と織物業』(名古屋大学出版会1998年)がある。近年は、人々の生活存立の比較史に関心を向け、産業史を一つの手段として、地域における公共財供給の構造や担い手(Tanimoto and Wong eds., Public Goods Provision in the Early Modern Economy, University of California Press, 2019など)や、世帯に視点をおいた消費と家事労働の比較史(“The role of housework in everyday life” in Francks and Hunter eds. The Historical Consumer, Palgrave Macmillan, 2012など)などのテーマにも取り組んでいる。

【司会】アレクサンドラ・コビルスキフランス国立科学研究センター、CCJ研究所)

【主催】日仏会館・フランス国立日本研究所
【助成】フランス国立科学研究センター



* 日仏会館フランス国立日本研究所主催の催しは特に記載のない限り、一般公開・入場無料ですが、参加にはホームページからの申込みが必須となります。

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