宙づりにされた核福島から世界へ―どのような未来のエネルギー政策があるのか、総括と提言
[討論会]
18:00〜21:30 1階ホール フランス語
「Nature et sciences au corps」©Cécile Brice
『フランス発「脱原発」革命』(2012年)の著者であり、Global Chanceの創設者でもある原子核物理学者ベルナール・ラポンシュ先生の来日を記念し、エネルギー政策について議論する。
3月が来ると、福島の原発事故からまた一年が経ったことが思い出される。他に類を見ないほどの規模となったこの事故は、原子力エネルギー市場に大きな試練を課した。しかし、この市場は信じ難いような政治的支援を受けている。「活動こそが人間だけが持つ特権である」(ハンナ・アレント『人間の条件』1961年)としても、実際に活動をしようとする者は社会のごく限られた一部にすぎない。求められる活動の内容(ここでは、人間の生活を守るために脱原子力を目指す活動を意味する)が、支配的な少数派の決定に対立するものとなると、さらにその数は限られてしまう。支配的な少数派は、生き残るための計画を完全にコントロールするという究極の目的のため、より可視的な惨事(温暖化とそれに伴う飢饉、疫病など)をめぐってプロパガンダを流し続けている。
このようにして、反対派は声を潜め、しまいには服従することとなる。理性的な議論はないがしろにされ、説得力のある提案は無視され、物事を変えるというよりは、意気地のない反対の声をあげることで罪悪感から解放されることだけが目的の茶番が繰り広げられるのである。
しかしながら、真の抵抗者は確かに存在し、その中には原子核物理学者たちもいる。彼らは科学的知識に基づき、原子力以外のエネルギー資源への移行の必要性を正当化する根本的な理由を明らかにしてくれる。本討論会では、彼らを迎えて議論を深める。
(文責:セシル・浅沼=ブリス)
【プログラム】
18h00-18h05
イントロダクション : セシル・浅沼=ブリス (日仏会館・日本研究センター及びリール第1大学 協力研究員、フランス国立科学研究センター北アジア地域事務所副所長)
短編映画上映
18h05-18h20
「KUROZUKA、黒と朱」 (短編映画, 2014年)
製作:はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト
助成:文化庁
企画立案、美術: 渡邊晃一、ダンス:平山素子、監督:高明、音楽:野島健太郎
討論
18h20-18h55
今中哲二 (原子核物理学者、京都大学)
日本の原子力開発を振り返って:福島原発事故へ至る道
18h55-19h05 質疑応答
19h05-19h30
セシル・浅沼=ブリス
日仏原子力発電の半世紀以上:市民の受け入れ方針
19h30-19h35
休憩
19h35-20h20
ベルナール・ラポンシュ (Global chance 共同創設者)
世界におけるエネルギー移行
20h20-21h05
ラウンドテーブル/ベルナール・ラポンシュ、今中哲二、島薗進、渡邊晃一、ティエリー・リボー、セシル・浅沼=ブリス
短編映画上映
21h05-21h30
「KUROZUKA、黒と光」(短編映画、2015年)
製作:はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト
助成:文化庁
企画立案、美術 : 渡邊晃一、舞踏:大野慶人、監督:古田晃司、音楽:落合敏行
【登壇者紹介】
ベルナール・ラポンシュ
エコール・ポリテクニーク卒業。原子炉物理学およびエネルギー経済学の博士号をもつ研究者。1960−70年代、原子力委員会の技術者として初期のフランス原子力発電所建設に携わる。1980年代には環境・エネルギー庁の要職、エネルギー工学研究所(AFME, 今日はADEME)所長(1982年〜1987年)を経て1988年〜2012年、エネルギー工学国際コンサルタントとして活躍後、1998~1999年にはドミニク・ヴォワネ環境相(当時)の技術顧問、今世紀に入ってからは国連欧州経済委員会のEE21(エネルギー効率21プロジェクト)の指導委員長を務める。『フランス発「脱原発」革命』(明石書店、2012年)の著者。(Benjamin Dessus との共著)
今中哲二
京都大学原子炉実験所助教および京都大学大学院助教。
原発事故後の被災者の仮説住宅について、また、とりわけ避けられない問題である避難政策の必要性について研究している。本講演会では福島原子力発電所の現状についての総括をする。
セシル・浅沼=ブリス
フランス国立科学研究センター(CNRS)北アジア地域事務所副所長。都市社会学博士。フランス国立社会科学高等研究院(Ecole des Hautes Etudes en Sciences Sociales EHESS, パリ)卒業。リール第一大学社会学・経済学研究所(Clersé)および日仏会館・日本研究センター協力研究員。2001年より日本在住。研究テーマは:(公共)住宅政策論。福島原発事故の防護や移住政策の管理について多くの論文を執筆し、日仏において同テーマに関する多くのシンポジウムの発表者および主催者を務める。
島薗進
東京大学大学院人文社会系研究科名誉教授、上智大学神学部特任教授。『つくられた放射線「安全」論』(2013年)、『科学・技術の危機再生のための対話』(池内了との共著、2015年)など、数多くの著作がある。
ティエリー・リボー
リール第一大学社会学・経済学研究所(Clersé)研究員
ナディヌ・リボーとの共著 『Les sanctuaires de l’abîme – Chronique du désastre de Fukushima』 がある。(Éditions de l’Encyclopédie des nuisances、2012年)
渡邊晃一
福島大学 人間発達文化学類 文学・芸術学系 絵画研究室 教授。
本講演会の前後に上映する二つの短編映画は、目に見えない放射能に汚染された浪江と南相馬、二本松(福島県の風景)を舞台にしている。映画中の安達ケ原の鬼婆の伝説は、消費社会における地方と大都市圏の関係を暗示している。
【学術責任者】セシル・浅沼=ブリス(日仏会館・日本研究センター及びリール第1大学 協力研究員、フランス国立科学研究センター北アジア地域事務所副所長)
【主催】日仏会館フランス事務所
【後援】明石書店