5月
16
2009
  • 講演:

    • カトリーヌ・ヴィダル(パストゥール研究所,神経生理学)
    • 山内兄人(早稲田大学教授,神経内分泌学)
    • 田中 – 貴邑冨久子(横浜国立大学名誉教授,生殖生理学・脳科学)
  • 司会:

    • 井上たか子(獨協大学名誉教授,日仏女性研究)
  • 主催:日仏会館
  • 協力:日仏女性研究学会,日仏理医工農学系8学会
  • 講演要旨・講師プロフィール:

    田中-貴邑冨久子「脳に存在する2つの性—セックスとジェンダー」

    私は、脳を、「古い脳」と「新しい脳」の2つに分けて考えると、脳の性差として言及されているさまざまな知見や通説を矛盾なく整理したり、信憑性を評価したりすることができると考えている。

    古い脳というのは、視床下部、扁桃体、そして中脳、橋、延髄を含む脳幹という場所、新しい脳は、新皮質と海馬という場所から成る。古い脳の構造には、生まれる前に性分化がおこって、この脳部が司る本能、情動などの機能に性差ができる。食行動、性行動、攻撃行動などには明らかに性差がある。しかし、新しい脳には、生まれる前に構造の性分化がおこるという証拠はなく、誕生時には、男の子、女の子の新しい脳の機能にはちがいがないとされている。もし、新しい脳が司る思考や意志的な行動に性差があるとすれば、それは生後、養育、教育、そして社会などからもたらされる環境刺激に性差があり、そのため神経回路に性差ができるからだ。こう考えると、古い脳には、生物学的性=セックスがあり、新しい脳には、社会的/文化的性=ジェンダーがあるということができる。

    講師履歴

    医学博士、横浜市立大学名誉教授、国際医療福祉大学客員教授。

    1964年、横浜市立大学医学部卒業、69年、同大大学院医学研究科修了、85年、同教授。その後、同医学部長。

    日本生理学会、日本神経科学学会、日本内分泌学会、日本神経内分泌学会、日本生殖内分泌学会などで理事、幹事、監事、会長を務める。日本性差医学/医療学会評議員。専門は生理学、神経内分泌学、脳科学。

    主著に「女の脳/男の脳」(NHK ブックス)、「脳の進化学」(中公新書ラクレ)、「がんで男は女の2倍死ぬ」(朝日新書)ほか。共著に「性差とは何か」(日本学術協力財団)、「環境生理学」(北海道大学出版会)ほか。

    山内兄人「動物の本能行動から脳の性差を考える」

    動物は本能に根ざした行動により生活をしています。本能は生きるため、子どもを産むため脳に組み込まれている機能です。動物の本能行動は生理的な、または感覚的な反応として生じる仕組みになっており、脳に本能行動をつかさどる神経回路が発達しています。私どもの研究室では、ラットを用いて、性差の最も大きい、生殖機能における本能行動の神経回路、雌雄差を研究しております。雄ラットは雌のホルモンを注射されても雌特有の性行動をすることはありません。一方、雄に赤子を与え続けると母性行動をするようになります。しかし、そこに性差があります。

    人間では動物とは違い、本能行動が生理反応として行われるのではありません。人間の行動は意識のもとにおこなわれ、意識は後天的に形成されます。人間の脳の中では、本能行動を生じさせるメカニズムを基盤とし、生理的な反応として「欲求」が生じと考えられます。性欲、食欲といったものです。それは、脳の高次機能によるものと考えられるでしょう。ラットの脳機能の性差から人間を見てみたいと思います。

    講師履歴

    早稲田大学人間科学学術院神経内分泌研究室。1948年生まれ。

    1971年に早稲田大学教育学部理学科生物卒業後、1972年より順天堂大学医学部第二解剖学助手、1980年に医学博士号取得(順天堂大学医学部)。1986年より順天堂大学専任講師、1987年に早稲田大学人間科学学術院助教授、1992年同教授。2003年からは早稲田大学人間総合研究センター所長を兼任。専門は生殖機能の神経内分泌学、脳の性分化。

    主著に「性差の人間科学」(2008年、コロナ社)、「脳が子どもを産む」(1999年、平凡社 [平凡社選書194])など。編著書に「女と男の人間科学」(2004年、コロナ社)、「脳の性分化」2006年、裳華房)などがある。

    カトリーヌ・ヴィダル「脳に性差はあるのか」

    神経科学の発達にともない、男女間の生物学的差異に関する俗説は一掃されたと信じたくなるが、相変わらずメディアや雑誌では、女性は“生まれつき”おしゃべりで道路地図を読むことができず、男性は数学が得意で競争に強く、誠実でない、などといった紋切り型が横行している。このような言説によると、まるで私たちの適性と人間性は変化することのない精神構造と結びついているかのようだ。しかし、最新の研究成果はまったく反対のことを明らかにしている:脳は、その優れた“可塑性”により、学習や経験に応じて常に新しい神経細胞の回路を作り出しているのである。異なる教育を受けた女児と男児の脳機能に相違が認められるとしても、それは生まれたときから差異が脳に存在し、存続し続けているということではない。本発表では、生物学の役割について解説するだけでなく、男女のアイデンティティー形成における社会的・文化的環境の影響を明らかにする。

    講師履歴

    脳病理学者、パストゥール研究所(パリ)研究員、パリ第6大学にて神経生理学の国家博士号取得。

    主要な研究領域は、痛みのメカニズム、記憶と大脳皮質の関係、脳のエイズウィルスによる感染。現在は、アルツハイマー病やクロイツフェルト・ヤコブ病など神経の退化を伴う疾病に関する研究を行う。

    研究と同時に、出版や講演、メディアでの発言を通して科学の普及にも努めている。科学と社会の関係、特に生物学的決定論や脳と性などの問題に関心を抱いている。

    フランス国立科学研究センター(CNRS)における女性の地位に関する学術諮問委員会のメンバーを務めるほか、エミリー・デュ・シャトレ研究所および「女性と科学」協会の学術諮問委員会のメンバーでもある。

    著作に Cerveau, sexe et pouvoir (avec D. Benoit-Browaeys, Editions Belin, 2005, 邦訳「脳と性と能力」、集英社新書、2007年。2006年に Prix de l’Académie des Sciences Morales et Politiques 受賞), Féminin/Masculin : mythes et idéologie (Editions Belin, 2006), Hommes, femmes : avons-nous le même cerveau ? (Editions Le Pommier, 2007), Cerveau, sexe et liberté (DVD, Editions Gallimard/ CNRS, 2007) などがある。

関連データ:

» GD Printemps2.pdf (PDF版プログラム)

* 日仏会館フランス国立日本研究所主催の催しは特に記載のない限り、一般公開・入場無料ですが、参加にはホームページからの申込みが必須となります。

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