10月
22
2024

前世紀初頭以後わが国に紹介されたフランス近代詩人のなかで、ランボーのケースが特殊なのは、最初の本格的な邦訳を担ったのが、いわゆるフランス文学者ではなく、のちに近代文芸批評の創始者と目される小林秀雄(散文作品訳)であり、20世紀前半の最も重要な抒情詩人の一人中原中也(韻文詩訳)であった点である。翻訳臭が稀薄で、彼ら自身の創作と見まがうばかりに訳者の言語に同化されたランボー作品は、訳者たちの名声の高まりと相まって日本語の風土に早々に根づいた。彼らを訳者に得たことがランボーにとって僥倖であったのはまちがいない。1930年代に刊行された二人の訳は、今日ではともに岩波文庫に収められ、戦後次々に刊行された新訳を凌駕して、今なお多くの若い読者がまず手に取るランボー訳であり続けている。その根強い人気が何よりもまず、ランボーを完全に自分の声に取り込んだトーンの創出に由来することは間違いない。

その反面、刊行後90年を経た今日の地平から見れば、ランボー理解の次元でも語学的精度の面でも、これらの翻訳は深刻な欠陥を含んでいる。もはやランボー訳というよりも、ランボーに基づく小林秀雄、中原中也の作品ととらえるべきものだ。日本におけるランボーの不運とは、独特の文体的魅力を宿しながらも、原文のメッセージから逸れたりそれを歪曲したりする名だたる作家による翻訳への若い読者の愛着ないし固着が長く続き、作者の意図(それ自体が推し量りがたい書法をランボーはしばしば採るのだが)に肉薄する読みが実現しにくかった点にある。

ランボー紹介のパイオニアとしての小林、中原の貢献は正当に評価しなければならない。しかし新しい読者に「これがランボーだ」と錯覚させる無責任に終止符を打つべき時がとうに到来している。本講演では、小林・中原以後の翻訳者の仕事も視野に入れ、先人の業績を歴史的に相対化したうえで、今後のランボー受容のあるべき形を、翻訳者、読者、エディターという三つの視点から探ってみたい。

 

【講師】中地義和(なかじ・よしかず)、(公財)日仏会館副理事長、東京大学名誉教授。ランボー、ボードレールを中心に19世紀フランス詩が専門。ランボーについては以下の出版物がある。Combat spirituel ou immense dérision ? Essai d’analyse textuel d’Une saison en enfer (José Corti, 1987)、『ランボー 精霊と道化のあいだ』(青土社、1996年)、『ランボー 自画像の詩学』(岩波書店、2005年)、『ランボー全集』(青土社、2006年、『イリュミナシオン』全篇の訳、註、解説を担当)、『対訳ランボー詩集』(岩波文庫、2020)、Les Saisons de Rimbaud (Hermann, 2021, en collaboration)。

【ディスカッサント】浜永和希(はまなが・かずき)、東京大学助教。2023年、ソルボンヌ大学に提出した博士論文« Morale et fantaisie dans l’œuvre en vers de Rimbaud »(「ランボーの韻文作品におけるモラルとファンタジー」)により同大学博士号を取得。ランボー論として他に、« Mère et fils dans Mémoire de Rimbaud »(「ランボー「記憶」における母と息子」、2024年)、« D’Olympio au “voleur de feu”. L’héritage littéraire du romantisme dans la lettre du 15 mai 1871 »(「オランピオから「火を盗む者」へ 1871年5月15日付書簡におけるロマン主義の文学的遺産」、2024年)などがある。

【司会】トマ・ガルサン(日仏会館・フランス国立日本研究所)
【主催】日仏会館・フランス国立日本研究所
【協力】(公財)日仏会館

* 日仏会館フランス国立日本研究所主催の催しは特に記載のない限り、一般公開・入場無料ですが、参加にはホームページからの申込みが必須となります。

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