復元の歴史と理論
[討論会] パトリス・グルバン(ノルマンディー国立高等建築学校)、海野聡(東京大学)
14:00~16:00 ホール 同時通訳付
国際討論会シリーズ「建築遺産の復元」の第5回(最終回)となるセッションでは、復元という実践の歴史と理論に焦点を当てる。これまでのセッションでも見てきたように、日本とフランスは、しばしば知られていなかったり誤解されたりしているものの、建築遺産の復元において長い伝統を共有している。両国では、復元の背景にある諸事情、建築物の種類、使用される材料などは大きく異なることが多いものの、その実践を比較することで、共通する遺産観やアプローチを浮かび上がらせることができる。例えば、フランスでは長年、失われた遺産の復元に否定的な立場が取られてきたが、第二次世界大戦による破壊を受けて、復元・復原が重要な役割を果たした時期があった。フランスの再建期を専門とするパトリス・グルバン氏(ノルマンディー国立高等建築学校准教授)は、損失または損傷を受けた遺産に対する修復・再編・近代化の政策について紹介する。一方、日本では、復元の実践についての理論が2000年代以降に本格的に展開されるようになり、それは日本の遺産観を明らかにするだけでなく、社会(その歴史や文化など)と復元との密接な関係性についても示している。日本建築史の研究者であり、復元研究の第一人者でもある海野聡氏(東京大学工学部建築学科准教授)には、特に木造建築の遺産再建という枠組みの中で、「復元学」という学術的領域についてお話いただく。
パトリス・グルバン「戦争で被災したフランスの文化遺産の復原・適応・近代化(1940~1981年)」
ノルマンディー国立高等建築学校准教授。第二次世界大戦中および戦後のフランスにおける遺産の保護と再建に関する博士論文を執筆後、ノルマンディー地域を対象とした複数の書籍や論文を通じて、そのテーマをさらに深く掘り下げる。また、1944年以降の都市および住宅再建の歴史、農村や農業建築の再建、再建建築の現代的変容、およびその遺産化に関する複数の研究プロジェクトを展開。現在は、フランスとポーランドの建築物の復元を比較する国際的な共同研究プロジェクトにも参加している。
海野聡「日本における木造建築遺産と復元学」
1983年, 千葉県生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授,博士(工学)。
専門は日本建築史・東アジア建築史・文化財保存。2009年, 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程中退。2009年に奈良文化財研究所に就職し、平城宮の発掘調査や第一次大極殿院東西楼の復元、薬師寺東塔の修理、延暦寺の全山建造物調査による文化財指定、鳥取県若桜町の町並み保存調査などに携わった。2018年10月から現職。
著書に『古建築を復元する――過去と現在の架け橋』(2017年, 吉川弘文館), 『建物が語る日本の歴史』(2018年, 同), 『奈良で学ぶ 寺院建築入門』(2022年, 集英社新書), 『森と木と建築の日本史』(2022年、岩波新書)、『日本建築史講義――木造建築がひもとく技術と社会』(2022年, 学芸出版社),『古建築を受け継ぐ メンテナンスから見る日本建築史』(2024年,岩波書店)など。
【司会】デルフィーヌ・ヴォムシャイド(日仏会館・フランス国立日本研究所)
【主催】日仏会館・フランス国立日本研究所
【協力】東京大学工学部建築学科
【協賛】在日フランス大使館、GIS Asie、クレディ・アグリコル・CIBジャパン